「上達の法則」 岡本浩一著
「上達には法則がある。」
それは決して近道を見つけるのではなく努力の効率をあげる法則である。
また、それは様々な技能に共通性がある。
そして、上達の先にある認知構造の変化を体得することができれば「上達の経験者」となることができる。
自らの上達に関する深い経験によって得られた”自信”と”洞察”を様々な場面で生かすことができればさらなる自己の成長にも繋がるだろう。
本書ではその法則について心理学的観点から具体的に、構造から実践法まで多岐にわたり書いてある。
なおこの上達のレベルというのは野球界のイチローのような「超一流」を指すのではなく人並みの適正量のある技能にそう無理ではない練習量でまあまあ一人前になるレベルである。
仕事上の資格であれば、昇進の際に必要となるころにはとれていて、時間が経ち資格に関するさまざまな規定の変化についていけること。
英会話なら外国に仕事で一人で行っても困らないレベルに達すること。
絵画や書や写真なら、小さなコンテストにだして佳作に入る可能性が少しはあるレベルになることだ。
記憶の構造
記憶については脳の働きをリアルタイムで観測できる医学的手法は日進月歩で進んでいる。
今回は上達を考えるという目的に沿ったわ切り方で記憶を論じることにする。
まず知識に関する記憶は
宣言型知識
手続き型知識
の二つに分けられる。
宣言型とは言葉にできる知識 例 円周率は3.14である、明治維新は1868年だなど。
手続き型とは動作の知識 例 スポーツのやり方など。
この二つは長期記憶と分類されるものである。
次に、物事を数百ミリ秒だけ記憶する
アイコニックメモリ(感覚記憶)
数秒だけ記憶する
ワーキングメモリ(作動記憶)
の2がある。
アイコニックメモリは見たものを瞬間的に記憶し、必要があればそれをワーキングメモリに移行している。
人間が普段会話をするのにはこのふたつの記憶を使って会話をしている。
だから数秒もすれば会話の内容を忘れてしまう。
そしてワーキングメモリに移行させた記憶を何度も繰り返すことにより長期記憶に変換させている。
その長期記憶は前述の通り二つに分けられる。
つまり
アイコニックメモリ ⇒ ワーキングメモリ ⇒ 長期記憶
の順番で記憶される。
そして長期記憶の中にある技能を発揮するにはワーキングメモリを通らなければならない。
ワーキングメモリには容量はチャンクと呼ばれる単位であらわされる。
人の限界はだいたい7チャンクから9チャンクである。
電話番号は7桁か8桁なので一度に覚えられるのはそれぐらいが限界となる。
チャンクは数を増やすことはできないが1つ1つの容量を大きくすることはできる。
さきほども言った通りワーキングメモリは記憶するときも記憶を引き出す時も通る、
したがって上達をした状態というのは次の状態にある。
- 技能に必要な宣言型知識と手続き型知識が豊富に長期記憶に蓄えれていること。
- 必要な知識が、必要に応じて長期記憶から検索できること。
- 検索できた長期記憶が、ワーキングメモリで有効に用いられること。
スキーマとは知覚、認知、思考が行われる枠組みをいう。
身近なところだと自動車の縦列駐車などをスムーズに行えると「スキーマがある」
と表現する。
上級者は当該の技能に関するスキーマが優れている。
スキーマの形成が上達へのカギとなる。
スキーマを支えているに先に説明した記憶の構造がかかわっている。
技能のなかには言葉には表しにくい動き、タイミングなどがある
それらは手続き型知識として記憶されるが、知識を貯蔵するには7チャンクという容量限界のあるワーキングメモリを通過させる必要があるので、その知識を一度言語に準じた形式にその人の思考の中であらわされる必要がある。
その工程をコード化と呼ぶ。
上級者の記憶システムには動作があらわされ記憶されるコードを多く持っていてそのコードが一つの体系をなしている。
これをコードシステムと呼ぶ。
例えばボールを相手に投げる場合ボールの重さ、相手との距離などをコードとして処理されコードシステムにかけられる。
それらのコードが過去にボールを投げた経験を思い起こさせ、さらにそれがスキーマを通じて投げる動作や投げる強さの判断を生み出すという仕組みになっている。
このことから技能経験の豊富さがそのまま上達につながることにはならないということがわかる。
自我関与
自我関与とはその課題に本気で取り組む度合いのことである。
ワーキングメモリから長期記憶の形成には自我関与が大きくかかわる。
得意なものにこだわる
ある一つの自分の得意なことをのばす、それを中核としてそれにこだわり、長けてくるようになるとその中核認知において形成された認知スキーマが
別のものを見るときの洞察を生むようになる。
ようは得意のなものを伸ばすことでそこで得たスキーマにより他の面にも生きることになる。
これが逆にバランスのとれた鳥瞰的認知を得ようとするとかえって中核のない浅い技能となってしまう場合がある。
あくまで鳥瞰的認知とは一点を中核とした認知を繰り返すことによって獲得していくのが有益である。
また得意なものは長所となり自己アイデンティティ(個性)となる。
自己アイデンティティは強い自我関与を生みワーキングメモリから長期記憶の形成の鍵をにぎる。
実践法
・ノートをとる
ノートをとることには記憶力向上に大きく影響する。
利点としては次の3つがあげられる。
1.コード化力up
コード化するためには技能的知識を一度自分のなかで言語化しなければならない
ノートをとることによって動作などを言葉にすることがコード化の助けとなり、またコード化したものを言葉にすることがコードの整合性を高めてくれる。
また、最初はどう書いたらもわからないかもしれないが自分なりの書き方を見つけること、その試行錯誤がコード化のプロセスを鍛えることになる。
2. 心理的圧力
「読んだら忘れない読書術 樺沢紫苑著」でも書いたが、アウトプット前提で練習に臨むことにより「ノートを取るためにも覚えておかなければならない」という精神状態を利用する。
この負担がコード化能力向上に大きく貢献する。
3.経験の追体験
1の経験をしても2の量、3の量に工夫するのが上達の要締である。
ノートはそれを可能にする。
また、試合や練習など技能習得の場で自分がどう思ったかなど感情的面のメモなどを残しておくと時間が経った後でもその体験を想起して1度の体験価値を上げることができる。
また、ノートをとって見直さなくてもノートをとるという行為自体が心理的な自我関与を高めてくれる。